11月3日(土・祝)まで開催されている第31回東京国際映画祭で30日、日本映画スプラッシュ部門に出品されている『漫画誕生』の上映とQ&Aが行われ、主人公・北沢樂天を演じたイッセー尾形と、その妻いのを演じた篠原ともえ、メガホンをとった大木萠監督が登壇。来場者からの質問に答えた。本作は、手塚治虫らに影響を与えたと言われる“近代漫画の父”北沢樂天の、波乱と謎に満ちた半生を描いたヒューマンドラマ。イベントが始まるやいなや、イッセーから「大木さんはなぜこの映画を作ろうと思ったんですか?」と直球な質問をぶつけられた大木監督は「日本の漫画というものを作ったすばらしい人であるにも関わらず、いまはすっかり忘れ去られているという部分が興味深かったんです」と本作を手掛けた経緯を語る。そして「実は尾崎放哉の映画をいつか撮りたいなという想いがあって、放哉と樂天がリンクする部分を感じたので、この作品をお引き受けしました」と補足した大木監督に、篠原からも「どうやって北沢樂天という人を知りましたか?」と質問攻め。大木監督ははにかみながら「私もこの映画をやることになって初めて知りました」と、知られざる名匠との出会いを明かした。さらに大木は、イッセーを樂天役に配役した理由について「まず顔が似ていたから」と笑いを誘い、「ひとり芝居を直接見たことがなかったけれど、映画俳優としてのイメージでイッセーさんのファンでした。この人間性や北沢樂天のユーモアを表現できるのはイッセーさんしかいないと思ったから」と告白。するとイッセーは「いま思い出したけど、俺昔テレビで尾崎放哉やっことあるわ」と思いがけない放哉と樂天のリンクを明かし、大木監督はワンテンポ遅れて驚きの表情を浮かべた。観客から質問を募ると、まず挙がったのはイッセーの役作りについて。「実は結構せこい仕事をやってましてね」と笑いながら語り始めるイッセーは「北沢樂天の顔写真があって、顔を真似て、その顔から出てくるであろう声を想像したり、歩き方や体型も。芝居的には、シリアスなシーンで彼の言葉尻を注意しながら、ドラマを丁寧に作り上げることを心がけました」とその卓越した演技を引き出す秘訣を明かす。すると大木監督からイッセーの凄さが垣間見えるエピソードとして「脚本の通り一言一句そのままでやってもらって、テストを重ねながら語尾を相談して一緒に作っていきました。本当にびっくりしました。すごく長いセリフだったので、これは舞台経験している人じゃないとできないことだなと思いました」。それを聞いたイッセーは「覚えないほうがよかった?」とつぶやき、会場は爆笑に包まれた。また、実際に当時の漫画文化について研究をしているという観客から史実との違いについて訊ねられた大木監督は「ほぼほぼ細かいところはフィクションです」と明かし「あえてわかりやすく、どうすれば北沢樂天という誰も知らない人に興味を持ってもらえるかとか、映画なりに作らせていただきました」と本作の核心に触れる。するとイッセーも「実際の人物は演じやすいけど、終わった後に質問されると大変だね。詳しい人が多いから」と、ユーモアたっぷりの発言で会場を大いに盛り上げた。(Movie Walker・取材・文/久保田 和馬)https://news.walkerplus.com/article/167572/